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ウィルコム「W-ZERO3」のブロードバンド機能を検証(後編)

 本体にQWERTYキーボードを搭載し、PHSと無線LANを標準でサポートしたウィルコムの「W-ZERO3」。前編では、W-ZERO3の本体機能を中心にチェックした。後編ではW-ZERO3で利用できるサービスやアプリケーションを中心にレビューをお届けする。


オプション対応のHOTSPOT以外も公衆無線LANは利用可能

本体に同梱された「ウィルコム無線LANプラン」試験サービスの申し込み用紙
 無線LANを標準搭載したW-ZERO3の発表に合わせて、公衆無線LANサービス「HOTSPOT」が利用できるオプションプラン「ウィルコム無線LANプラン」が発表された。サービス開始は2006年6月からとかなり先だが、W-ZERO3を購入したユーザーであれば、W-ZERO3購入時から正式サービス開始までは無料で利用できる。

 W-ZERO3にはウィルコム無線LANプランを利用するためのIDやパスワードおよび試験サービス申し込み用のはがきが同梱されており、はがきに名前など必要事項を記入してウィルコムへ送付することで試験サービスを申し込める。実際には申し込み前でも記載されたIDやパスワードを使ってHOTSPOTを利用できるが、申し込みはがきを送らない場合、サービスが利用できなくなる可能性もあるという。

 実際にW-ZERO3でHOTSPOTのアクセスポイントに接続したところ、通常のHOTSPOTと変わらず利用が可能だった。ただ、IDとパスワードは手動で入力する必要があり、電話帳などの引用などもできないためにログイン作業はやや手間がかかる。また、今回試したウィルコム無線LANプランでは、パスワードの英字がすべて大文字だった。キーボードで大文字を入力するにはShiftを押しながら文字を入力するか、CapsLockをオンにすればいいが、CapsLockのオンオフ状態は画面では認識できない。W-ZERO用のID・パスワードは、できれば小文字で統一したほうが入力がよりスムーズに進むと感じた。


申し込み用紙に記載されたIDとパスワードですぐにHOTSPOTを利用できる


 正式サービスの料金は、音声通話が中心の料金プランではHOTSPOTとほぼ同額の初期費用1,500円、月額1,600円が必要だが(HOTSPOTは税別、ウィルコムは税込と少額ながら差は発生する)、データ通信プランに加入している場合は月額700円と安価で、ISPプランも含めてHOTSPOTの月額プランでは最安値。また、最大256kbpsのデータ通信プラン「[PRO]」コースでは月額料金が無料になる。HOTSPOTを頻繁に利用するユーザーには嬉しい料金設定だ。

 HOTSPOT以外の公衆無線LANサービスも、ユーザーが設定すれば利用可能。今回試した範囲では、NTTドコモのMzone、日本テレコムのBBモバイルポイント、ライブドアのlivedoor Wireless、12月20日でサービスを終了するNTTブロードバンドプラットフォームの無線LAN倶楽部が利用できた。


日本テレコムの「BBモバイルポイント」 NTTドコモの「Mzone」

公衆無線LAN検索などのユーティリティーも

 公衆無線LANサービスの検索アプリとして、昭文社の「ちず丸 for WILLCOM」も12月14日から無償で提供されている。このアプリを使えば、緯度と経度情報から付近のアクセスポイントを検索することが可能だ。緯度・軽度情報の取得にPHSのシステムを使うため無線LANでは利用できないが、公衆無線LANを探す時はそもそも無線LAN環境がない時がほとんどのため、特に問題はないだろう。また、PHS接続はウィルコムの公式アクセスポイント以外にISP経由でも利用できる。

 ちず丸 for WILLCOMで利用できるのは付近のアクセスポイント検索のみで、住所や駅名からの検索には対応していない。指定した情報で検索したい場合は、ウィルコム公式サイトからWeb版の「ちず丸 for WILLCOM」を利用しよう。ただし、公式サイトはウィルコムのアクセスポイント経由でなければ利用できないため、ISP経由で接続する場合はIRIコマース アンド テクノロジーの「dokoyo.jp」が便利だ。

 なお、12月16日には無線LAN接続切替ツールが無償配布される予定だったが、現時点では配布を確認できていない。このツールを使えばより無線LANの利用が便利になるだろう。このツールはまた場を改めて試してみたい。


アプリ「ちず丸 for WILLCOM」で周辺のアクセスポイントを検索。付近の情報のみ検索できる ウィルコム公式サイトからは地図や住所でも検索できる

DRM対応の「バンダイチャンネル」コンテンツが購入できる

バンダイチャンネルで「機動戦士Zガンダム」をストリーミング再生
 W-ZERO3には、メディアプレーヤー機能として「Windows Mobile Player 10 mobile(以下WMP 10)」が標準搭載されている。WMPを利用することでMP3とWMAの音声ファイル、WMVの動画ファイルが再生可能だが、単なる再生機能以外にWindows Media DRMをサポートしている点も特徴だ。そこでWM DRMを採用したコンテンツ配信サービスを利用してみた。

 まずは動画配信サービスから見てみよう。@niftyの「バンダイチャンネル」にアクセスし、決済サービス「PLEASY(プリージー)」経由でコンテンツ購入、ストリーミング再生が可能だった。ただし、前編でも触れた通りスループットがそれほど高くないため、500kbpsのクオリティでもコマ飛びが発生する。また、Flashのバージョンが高いなどの理由からW-ZERO3ではサイトが正しく表示されず、正式なライセンス発行手続きに至らない場合もある。

 もちろん、DRMに対応していないストリーミングコンテンツも問題なく再生できる。impress.TVのコンテンツのうち、300kbpsの配信帯域であればコマ落ちもほとんど気にせず楽しめた。

 WMV形式の映画コンテンツをダウンロードできる「CinemaNow」も試してみたが、サービスに必要なプラグインをインストールできないために利用できなかった。また、映画本編を中心に配信するCinemaNowでは、コンテンツもギガ単位の大容量のものが多い。W-ZERO3で利用できれば非常に魅力的なサービスだけに、Windows Mobile向けに容量や画像サイズを最適化したサービスを期待したいところだ。


「PLEASY」のIDとパスワードで決済 impress.TVの300kbpsコンテンツをストリーミング視聴。スムーズに再生できた

音楽配信サービスのプレーヤーにもなるW-ZERO3

 続いては音楽配信サービスだ。PCとW-ZERO3をActiveSyncで接続、PC側のWindows Media Player 10から「同期」を選択すると、クライアントとしてW-ZERO3が認識され、DRM対応の楽曲ファイルが転送・再生できた。

 なお、W-ZERO3のWMPはWindows Media DRM 10に対応しているため、24/16bitでlossless形式のWMAも転送が可能。ただし、WーZERO3のハードウェアが対応していないためにエラー表示が出て再生はできないので、あまり使い道はなさそうだ。

 最近はポータブルプレーヤーへの転送回数を無制限としている楽曲も増えており、1回でも転送を行なった端末には、楽曲ファイルを手動でコピーしても再生できる。角形ヘッドフォン端子を使えばヘッドフォンも利用でき、十字キーで音量調節や早送りといった操作も可能。MP3にも対応しているため、miniSDカードの容量次第では音楽プレーヤーとしても利用できそうだ。

 なお、W-ZERO3のブラウザ機能を利用して、音楽配信サイトから直接楽曲をダウンロード購入することもできた。ただし、W-ZERO3のWMP 10は楽曲の転送機能をサポートしていないため、購入した楽曲はW-ZERO3でしか楽しめない。基本的にはPCから購入した楽曲をW-ZERO3に転送するほうが利便性は高いだろう。


W-ZERO3にDRM対応のWMAファイルを転送できる WMA losslessは転送できるがハードウェアの仕様上再生できない

Windows Mobile 5.0対応の「スカイプ」もベータ版が公開

12月16日に公開された「Skype for Pocket PC」1.2ベータ
 W-ZERO3の製品発表時に八剱社長からも言及されたP2P電話ソフト「スカイプ」。12月16日には、W-ZERO3が搭載するWindows Mobile 5.0に対応したスカイプのベータ版「1.2」が公開されたので、さっそくインストールして利用した。

 ベータ版はCAB形式で配布されているため、W-ZERO3で直接アクセスするか、PCからActiveSyncでW-ZERO3本体内に保存し、ファイル エクスプローラからCABファイルを開けばインストールできる。以前のバージョンは英語表示のみだったが、1.2では日本語表示にも対応した。

 スカイプ同士での音声通話を行なったところ、無線LAN経由ではほとんど気にならない程度のわずかな遅延でストレスなく利用でき、相手側の音声も聞き取れたが、PHS経由では1秒近い遅延が発生し、音声もやや不明瞭だった。とはいえPHS接続でも会話は十分可能だったため、PHSの通信速度が確保できれば十分に使えるだろう。なお、スカイプを利用した環境でのBNRスピードテスト(画像版)による速度計測結果は平均で73kbps程度だった。

 ただし、W-ZERO3で着信した相手の音声は本体背面のスピーカから出力される。電話の内容が周囲にまる聞こえになってしまうので、利用する場合は角型ヘッドフォンを利用したほうがいいだろう。

 音声通話以外ではテキストチャット機能も用意されており、1.2ベータでは日本語でのチャットが可能。モバイル環境から使えるテキストチャット機能は、音声通話よりも便利かもしれない。


相手のステータスを確認できる 日本語でのテキストチャットもサポート

ACCESS製ブラウザ「NetFront」も試験版が無償提供

「NetFront v3.3 for Pocket PC」Technical Preview版
 標準搭載のInternet Explorer、無償提供のOpera Mobile 8.5のほかに、W-ZEROに対応したブラウザとしてACCESSの「NetFront v3.3 for Pocket PC(以下NetFront)」も用意されている。NetFrontは製品版で有料になる予定だが、期間限定公開の「Technical Preview」版であれば無料で利用可能だ。なお、ソフトの配布はACCESSのPCサイトで行なわれており、PCを使ってActiveSync経由でインストールする必要がある。W-ZERO3でアクセスしてもファイルをPCへ移す二度手間が発生するので、最初からPCでアクセスするといい。

 Technical Previewながら機能は豊富で、検索ツールバーやInfoseekを使った翻訳機能、サイトの自動巡回などの機能を標準で搭載。画面表示もディスプレイのサイズに合わせるだけでなく、テキストのみ表示などさまざまなモードをサポートしている。

 しかし、NetFrontでも逆転裁判公式サイトのFlashが表示できないなど、Flash表示ではIEに劣る。また、Technical Preview版は無料だが、製品版の価格は未定。NetFrontの本格導入はOperaの正式リリースを待ちたいところだ。


フォントサイズ「最小」の「Just-Fit Rendering」で表示したところ。VGA表示にも対応している テキストのみ表示

Gmailとの相性が良いW-ZERO3

BloglinesでBroadband WatchのRSSを設定
 Flashのバージョンによって、表示できないサイトもあるものの、IEやOperaを使えばほとんどのサイトは閲覧できる。もちろん、外出先からのブログ更新も問題ない。miniSDや本体メモリに保存したデータのアップロードも可能なので、外出先で撮影した写真をその場でアップロードという使い方も可能だ。

 Web型のRSSリーダー「Bloglines」の場合、PC版ではなくモバイル版の画面が表示されるが、特に問題なく利用できる。ただし、一度表示したフィードは既読扱いになってしまうため、複数の画面を表示できないIEやOpera Mobileの機能限定版では使いづらいかもしれない。

 ただ、PodcastingをBloglinesからダウンロードできるのはなかなか便利だ。無線LAN経由であればW-ZERO3をPCと接続しなくてもいいので手軽に使える。さすがにPHS接続ではダウンロードに数分必要で実用的ではないが、待ち時間さえ気にしなければ使えないことはないだろう。


Bloglinesで「読売ニュースポッドキャスト」のRSSを取得。「Enclocure」が添付のMP3ファイル 音声ファイルはダウンロードのみ。ストリーミング再生はできない

送受信ともにSSL認証を設定すればGmailがW-ZERO3で使用できる
 変わったところでは、GmailとW-ZERO3の組み合わせがなかなか面白い。Gmailは2GBを超える大容量のWebメールだが、OutlookやBecky!といったメールソフトでも受信できる特徴を持っている。W-ZERO3標準搭載のメールソフトで設定したところ、送受信ともにSSL認証の項目にチェックを入れることで、GmailのアカウントをW-ZERO3に設定できた。

 他のメールとGmailが異なるのは、メールをすべてWebで保存する点にある。W-ZERO3で送信したメールは、WebのGmailの送信フォルダにも反映されるだけでなく、WebのGmailからメール送信した場合も、送信メールのコピーがW-ZERO3に送られてくる。インターネットを介して常にクライアントとWebでメールの同期が取れるのだ。

 このため、クライアントのメールを削除してしまっても後からWebで確認できるし、自宅とW-ZERO3のクライアントで同じGmailアカウントを設定していた場合、自宅から送ったメールを外出先からW-ZERO3でWebにアクセスして確認する、という使い方も可能だ。GmailとW-ZERO3を組み合わせることで、場所を問わないユビキタスメール環境ができあがる。

 Gmailはすでにアカウントを取得しているユーザーからの招待でのみ利用できるため、好きに使える訳ではないところが難点だが、1つのアカウントから最大100人まで招待できる。周りにGmailを使っている人がいないか、確認してみるといいだろう。


W-ZERO3でGmailにアクセス 現在、最大100名まで招待できる

機能は高レベル。今後はPHSならではのサービスに期待

 後編では主にW-ZERO3で利用できるアプリケーションやサービスを中心に見てきた。通信速度がそれほど高くないという課題はあるものの、標準搭載のQWERTYキーボードや大画面ディスプレイでブラウジングは快適。DRMコンテンツにも対応でき、今後のサービス展開が期待できる。何よりも、ユーザーから熱い支持を受けるウィルコムとPDAのファン層が融合することで、ユーザー発の機能強化も期待できるだろう。

 ただし、今回紹介した機能は、そのほとんどがWindows Mobile 5.0というOSと、シャープ製の「W-ZERO3」というハードウェアに依存したものばかり。肝心のウィルコムの通信サービスという点で見ると、音声ボタン1つで通話が可能ではあるものの、「PHS通信中には着信できない」といった課題が残されている。また、リダイヤルや着信履歴は通話画面から十字キー左右で確認できるが、画面にはガイド表示がされないなど、音声端末として見た時の完成度は、決して高いとは言い難い。

 無線LANとPHSのデータ通信でも、アプリケーションごとにユーザーが手動で切り替える必要があるなど、PHSを装着したPDAと違いはない。せっかくの無線LANとPHSが融合せず、端末の中でバラバラに動作している印象だ。

 Windows Mobile 5.0搭載PDAは、W-ZERO3に続いて各社が発表している。W-ZERO3が標準で音声通話がサポートしているという点を除けば、PDAにウィルコムのCF型PHSを装着してもほぼ同じことが実現できるだろう。そういう意味では今回のW-ZERO3人気は、今まで日本市場で今ひとつ盛り上がりにかけていたPDA市場がここにきて評価された、という見方もできるだろう。

 発表会で八剱社長が「まずはできるだけ端末を早く出したい」と発言していた通り、今回の端末はまず端末ありき、というコンセプトだ。しかし、実際にはハードウェアの機能とOSばかりが注目されていて、標準でPHSをサポートしていることのメリットがいま1つ見えてこない。

 昨年発売されたウィルコムの音声端末「AH-K3001V」は、PHSデータ定額というウィルコムの通信サービスと、フルブラウザを初めて搭載したハードウェアが非常にうまく結び付いており、それゆえに「京ぽん」との愛称で呼ばれるほどユーザーから高く評価されたと個人的には考える。今後は無線LANとPHSをシームレスに使えるような、ウィルコムならではのサービスと端末を期待したい。


関連情報

URL
  W-ZERO3(シャープ)
  http://www.sharp.co.jp/ws/
  ウィルコム
  http://www.willcom-inc.com/
  Download Skype for Pocket PC
  http://www.skype.com/products/skype/pocketpc/
  関連記事:ケータイ新製品SHOW CASE ウィルコム W-ZERO3[ケータイWatch]
  http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/showcase_top/26971.html

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ウィルコム「W-ZERO3」のブロードバンド機能を検証(前編)


(甲斐祐樹)
2005/12/16 17:56
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